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| written by めぐ
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◆第4話◆ ようやく、帰って来られた。 青木麗は、電車の中で一人ごちた。 とにかく、マヤのことが心配だった。 自分が長く巡業で家を空けているときに、よりにもよって紅天女の試演の無期延期などと。 そうでなくても、マヤは情緒不安定だったのだ。 正直、自分達の劇団の地方公演の成功を喜ぶどころではなかった。 マヤ……。 ![]() 最寄り駅に着いたとき、既に夜の帳が下りていた。 早足で慣れた道を辿り、とるものも取り敢えずアパートの扉をノックする。 「マヤ? 私だよ。帰ってきたよ!」 ―――何の沙汰も無い。 出かけているのか、と、鍵を開けて部屋に入ると…マヤが畳の上に伏していた。 いや、正しくは、倒れていたのだ。 「マヤっ!マヤっ?! ほら、しっかりして!」 抱き起こして頬を軽く叩くも、正気を取り戻さない。 元々小柄なマヤだが、気が動転している自分が一見しても、すっかりやつれている。 慌てて大家を呼びに行き、救急車を呼んでもらう。 しばらくして、サイレンの音もけたたましく到着した救急車から、救急隊員らが部屋に入ってきた。 マヤを見るなり、険しい顔をして、脈拍と呼吸を確認する。 「患者の氏名、年齢を。それから、一体どんな状況でこのような症状に陥ったのですか?」 「いえ、それが…しばらく留守にしていて、帰ってきたら倒れていたので…」 「そうですか。とにかく病院に搬送しますので、付き添いでいらしてください」 その言葉に、大慌てでマヤの当座の荷物を自分が下げて帰ってきたボストンバッグに詰め替えて、後の処理を大家に頼むと救急車に乗り込んだ。 その様子を、こっそり見つめる人影があった。 ![]() その頃真澄は、婚約者である紫織とイタリアンレストランで夕食を共にしていた。 彼女を丁重にもてなしながら、本日のデートの目的を果たすべく、努めて感情を表に出さないように慎重に言葉を探す。 「このパスタ、美味しゅうございますね、真澄様?」 「ああ、このバジルの使い方が絶妙ですね。紫織さんのお口にあったようで、ホッとしましたよ」 「あら…気にかけて下さったのね。嬉しい」 「…ところで、今日お呼び立てしたのは、他でもない僕達の結婚についてなのですが…」 「ええ?」 「紅天女の試演が延期となってしまったので、改めて試演が行われるまで、式を延期させて頂きたいのですが」 「まぁ…」 紫織は、半ば予期していたこととは言え、顔面蒼白。 手を微かに震えさせながら、フォークをカトラリーレストに置く。 心の動揺そのままの、チリリンと震えた音が微かに鳴った。 「それは、一体…」 「申し訳ありません。全ては僕の我儘なのですが、大都芸能がこの一大プロジェクトに賭けている意気込みは、勿論紫織さんもご存知かと思います。どうしても、その行く末をはっきり見定めてからでないと、自身の今後の生活が描けないのですよ」 「でも、試演は無期延期と伺っていますわ。真澄様は……私と結婚なさりたくないだけなのでしょう?!」 「…これはオフレコなのですが、姫川亜弓の目の治療は、数ヶ月で何とか目処がたつとアメリカの医師団が保証しました。ですから、そんなにお待たせすることは無いと……ただ、紫織さんが、待ちくたびれるというのであれば、この話自体無かったことにされてしまうのも致し方ないかと…」 「そ、そんなっ!…わ、判りましたわ。そのように、お爺さまにもお話を致します」 紫織の脳裏には、かのアルバムにあった北島マヤの写真の笑顔が浮かぶ。 やはり真澄様は、自分との結婚を望んではいない。 でも、私は…。 真澄に嫉妬で歪んだ顔を見られないように、紫織は徐にワイングラスを取った。 「これ、美味しゅうございますわね。何という銘柄ですの?」 07.02.2006 ![]() |
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