written by めぐ











◆第2話◆



実際問題、紅天女の試演が無期延期となって、マヤのスケジュールはほぼ白紙になった。
勿論、引き続き、阿古夜の仮面を模索する日々ではある。
ただ、改めて試演の日程が組まれない限り、黒沼の指導で稽古場に拘束される時間は無くなった。


桜小路を始め、他の紅天女に関るスタッフは、所属する事務所の力で新たなスケジュールを組んでいるようだ。
紅天女一本に絞ってスケジュールを組んでいたのは、恐らくマヤだけだったのだろう。

他の仕事を入れたくても、試演の日程を最優先しなければならない状況下では無理がある。
それに何より、何の後ろ盾もないマヤには、そもそも他の仕事を得る術が無い。



困った、な。

マヤは思う。
麗がいつ戻れるかも判らない状況下で、一人で生活していかなければならない。
ひねもす阿古夜のことを考えていたところで、その心に到達できないことは、もう充分に判っている。

それならば、北島マヤとして、とにかく生活をしていかなければ。

財布を覗くと、もう僅かだ。

いつも困ったときに手を差し伸べてくれた紫の薔薇は、もう無い。
演劇で食べていかれないのなら、何かアルバイトでも。


意を決したマヤは、服を着替え、家を出た。









「君が、ここで働きたいって?」

「是非お願いします!」

「履歴書とか、持ってきた?」

「…えと、そういうの、よく判らなくて……駄目ですか?」

「まぁ、うちも正直人手足りなかったから、いいよ。でも深夜とかでも大丈夫なの?」

「はい。頑張ります」

「じゃ、何なら、今からでも平気?」


先ほど野菜ジュースを購入したコンビニで、マヤは早速アルバイトを始めた。

ただのんびりとレジの番をしていればいいかと思っていたら、裏では結構な重労働が待っていた。
商品の入替等、舞台で鍛えているとはいえ華奢な体には正直きつかったが、これもトレーニングの一環と思い直した。


レジに立って、いろんな客を観察していれば、ひょっとしたら演劇の糧になるかもしれない。
コンビニの店員なんて普段なかなか気にかけないから、あの北島マヤと知れる心配もないかも。
私らしくもなく、賢い選択だったわ。
大体、私なんて、芸能人っぽくないからきっと判らないしね。
あはは。
きっとこれで、コンビニ店員の役が来たらバッチリできるようになるかも。


色々前向きに考えようとしながら、元来不器用な性質だと自認しているマヤは、与えられた指示を間違えないよう精精働いた。












「北島さん、今日はもうあがっていいよ」

ふと、店長に声をかけられ、気づいたら既に夜の8時だった。

「あ………お疲れ様でした」

「明日からまた宜しく。そうそう、廃棄する弁当あるけど、良かったら持って帰る?」


いいことあるじゃない。
食べることに困らなくなりそう。

片手にコンビニの袋を持ち、ぷらぷらさせながら帰途へつく。


ふと、これでいいのか、と我に帰る。

いいの。
生きていくためだもの。
現実逃避している訳じゃない。


また、今朝感じた、違和感。
顔が、目蓋が、ぴくぴくする。
その場に立ち尽くし、右目を右手で押さえ、しばらくやり過ごす。


うん、大丈夫。

早く帰って、銭湯に行こう。
きっと、慣れない仕事で疲れたのよ。













06.29.2006


…to be continued









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