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| written by めぐ
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◆第12話◆ あまり手入れされていない花壇にぽつりぽつりと咲くサルビアやひょろりとした向日葵に目を遣り、ゆっくりと歩く。 由布子は、マヤにとってこの散歩時のたわいない雑談が、今や何よりのリハビリであり、心の拠である筈だと思っていた。 しかし今、由布子は、何も語る言葉を持たない。 聖の真摯な言葉を聞いて尚、何も受け入れられないマヤを目の当たりにして、どんな言葉もまだマヤの心には届かないと思い知ってしまったから。 全てを失ったと思っているマヤには、今の聖の言葉は到底信じられない。 彼の言葉を素直に受け取るには、マヤの心の傷が深すぎた。 彼が自分に対してとても誠実な人であるとは信じていたが、そんなに自分にばかり都合よく世界は回らないと、マヤは幼い頃から身をもって体験していた。 でも、全てを諦めるために今しがた聖に向かって敢えて零した一言が、水溜りに生じた波紋が、返してやがては収束するように、ゆるゆるとマヤの心に戻ってきた。 “―――魂の片割れ” 確かに、彼は、マヤの魂の片割れであったと思う。 ただ、彼の魂の片割れが、マヤではなかっただけなのだ。 …何だ。きっと神様は、とても気まぐれだったんだ。 全ての魂を、完璧な番いに作らなかっただけなのね。 そうよね。この世の魂の数が、2で割り切れるとは限らないし。 たまたま、私の魂の片割れは、他の魂と添い遂げてしまう運命だから。 私は……この世から、あぶれちゃった? じゃあ、この世界で生き続ける意味は、あるの? ![]() マヤの一言に愕然とした聖は、その場に立ちつくしたマヤの足元に色濃く落ちる影を凝視しながら、必死に次に紡ぎ出すべき言葉を選り分ける。 心を決めると、大股に歩み寄り、マヤの前に回り込んだ。 マヤの左手を取り、花束を再度差し出して彼女の手に抱かせる。 そして、その手を持ったままマヤの目をしっかと見つめ、静かに言った。 「マヤ様。真澄様は、あなたの事を愛していらっしゃいます。勿論、稀有な女優として予てよりずっとファンでいらっしゃいましたが、それ以上に、貴方自身のことを一人の女性として、ずっと愛して慈しんでいらっしゃいました。お傍におります私には、それが自分のこと以上によく判っています」 「……一体、何を言っているの?」 「真実です。どうか、どうか信じてください。真澄様の苦しい胸の内を、心の葛藤をずっと拝見してきた聖が申すのです。決して嘘偽りではありません」 「速水さんには、紫織さんがいるじゃないですか。いつもあんな幸せそうにしていて…」 「あれは会社の為の縁談で、実際問題として真澄様は断れる立場ではありませんでした。婚約せざるを得なかったのです。そして、ご自分の心を偽っていることにずっと苦しんで、未だに後悔をしていらっしゃいます」 「まさか、速水さんが後悔だなんて」 「せめてマヤ様だけは、真澄様を信じて差し上げてください」 聖の声音には、真実の響きがあった。 聖の眼差しには、真摯な煌めきがあった。 真夏の陽射しに照らされた紫の薔薇は、この世のものと思われぬほどの、芳しい香りを漂わせ、マヤの頑な心を少しずつほぐしていく。 その強烈な日差しに照らされた白っぽく映える乾いた世界に、恵みの雨が染み込むがごとく。 聖の言葉が、マヤの心に染み込んでいった。 そして、真澄の中の真実が、ようやく正しい形で理解できた気がした。 そういえば、陰となり日向となり、いつも私に係わってくれていた。 嫌いなら無視をすればいいのに、係わってくれていた。 決していい係わりばかりではなかったけれど、薔薇を踏みにじらざるを得なかった真澄の立場も、今、何となく判ったような気がする。 ねぇ、私の思い過ごしじゃない、よね? でも、現実的には、この世で結ばれるなんてことは土台無理だということも判ってしまった。 とても、とても切ないけれど。 「ありがとう、聖さん」 マヤは、言った。 そして、心の中でつぶやく。 ”私、幸せです。 もし、これからも変わらず、ずっと係わってくださる気持ちがあるのなら…それだけで十分です。 でも、もうこれ以上、無理はしてもらいたくないの。 今まで色々あったけど、本当に、本当に、今まで良くして頂いたから… 現世で結ばれることがなくても、いつか天涯で……” 07.16.2006 ![]() |
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