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written by ミリ |
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今夜は久々のデートで、マヤは速水のマンションに遊びに来ていた。 今回で三度目だったが、きちんとしてホテルのような部屋に、居心地の悪さを感じる。 「痛っ・・・。」 マヤがソファーに座ろうとした時、毛足の長い絨毯の中に埋まっていた何かを踏んづけた。 探っていくと絨毯の中から、きれいな黒真珠のイヤリングが片方だけ出てきた。 !・・・。 心臓の鼓動が一瞬止まった気がした。 「どうかしたか?マヤ」 キッチンで飲み物の用意をしている速水が声を掛けてきた。 「えっ、ううん、何でもない・・・。」 とっさに震える手でイヤリングを握り締めた。 高価なものか詳しいことなどマヤにはわからなかったが、とてもきれいな黒真珠だった。 想いが通じて以来、速水の彼女は自分だけだと信じていたし、1mmも疑うなど有り得なかった。デートに遅刻してきても、キャンセルをされてもすべて仕事だと、素直に理解していた。でも、本当は他の女性と会っていたんだ・・・。いえ、そんなことはないわ。確かに仕事だったと何度頭の中で否定しても、手の中のイヤリングの感触が現実を見つめさせる。 速水がマヤ以外の女性を、この部屋に招きいれたという真実を・・・。 どうやって速水の部屋から帰ってきたかはわからなかったが、気が付くと自分の部屋にいた。玄関に立ち尽くし、何かが頬に流れていた。 泣いている・・・。 自分で気が付くまで、しばらくかかった。 速水さんにはちゃんと恋人がいたんだ。 北島マヤじゃない、あの黒真珠のイヤリングが似合う大人の女性。 速水さんがほしかったのは素の北島マヤじゃない。どんなに長い台本だって1回読めば覚えられて、ドラマに出れば視聴率が稼げて、主役の舞台じゃなくても出るというだけで連日満員に出来て、そしてあの紅天女を演じられる“女優 北島マヤ”がほしかっただけ。 私に向けられているあの目の先は、常に違う女性がいたんだ。 明日はドラマの撮影があることは、十分わかっていた。マネージャーが迎えに来るまでそんなに時間がないことも、こんなに夜泣いてしまったら、明日はひどい腫れた顔になることも、メイクじゃどうにもならないことは頭の中では理解していたが、勝手に涙が溢れ出してくる。 もう、終わりだ。 何もかも。 もう、二度と会わない。二度と・・・。 こんなことになるのなら速水と何もなければよかった。 ただの事務所の社長と、その看板女優の方がよかった。 幸せだった過去の自分が、未来の自分をこんなに苦しめるとは思ってもみなかった。 カバンからイヤリングを出してみる。 きっと速水がプレゼントしたものだろう・・・。 黒真珠のイヤリングなんて贈る彼女は間違いなく、大人で、綺麗な人・・・だろう。 次の日。 ひどい顔のまま、ドラマの撮影をする。 顔はメイクでごまかせたが、演技まではどうにもならなかった。 「マヤちゃん、何があったかは聞かないけど、今日はもう・・・。」 マネージャーの声に押されて、今日の撮影はキャンセルする。 「ねえ、マヤちゃん。社長と何かあったの?」 マヤと速水が付き合っていることは、マヤのマネージャーと社長秘書の水城だけが知っていた。昨日社長と会うまでは、元気で調子がよかった。しかし、今朝迎えに行くとひどい顔をし、社長と何かがあったことは容易に想像が出来た。 「何もないです・・・。」 マヤの嘘はすぐに見破られる。 言いたくない何かがあるのだろう。 スケジュールを組みなおす為、行きたくないというマヤと大都芸能本社に向かう。 本当はマヤ本人は必要なかったが、このまま部屋に帰っても何も解決しない。今日のキャンセルだけで済ませないと、来週の社長と合わせてとったオフをつぶさなければならない。 そんなことをしたらマネージャーにとって、恐ろしい地獄が待っているだけだ。どうしてもそれだけは避けたかった。 会議室にマヤ一人を待たせ、マネージャーは色々連絡してくるからと出て行く。 しばらくしてドアをノックして、誰かが入ってきた。 「こんにちは、マヤちゃん。」 「水城さん・・・。」 一瞬速水が来たのかと思った。 ホッとすると同時に、少し淋しく感じる。 もう会うつもりはない人に、会えないからと淋しく思うなんて、自分で自分がおかしくなる。 「ごめんなさい、社長にはどうしても書類を片付けてほしくて、来ていることを言ってないのよ。言ったらここに来ちゃうでしょう?」 「いえ、来るはずないわ。私なんて用がないもの・・・。」 マヤから想像していた言葉が出てきたことに、マネージャーが言っていたことは本当なんだと理解する。 ―――あの二人が破局する――― マヤのマネージャーが秘書室に来るなり、いきなり言った。 初めは冗談を言いに来たかと、すぐには信じられなかった。 しかし、状況を聞くとこのままでは、今後の水城やマネージャーの仕事にも影響しかねないことになる。 あわててマヤのいる会議室に飛んできた。 あんなに愛し合っている二人に、何があったのか心配になる。 今朝の社長はいつもと変りなかった。と、いうことは、知らず知らずにマヤちゃんの地雷を踏んだらしい。まったくいい年をした子供なんだから! 「社長と喧嘩でもしたの?」 「別に・・・。喧嘩ならまだ・・・マシかな?」 無理に微笑むマヤに、社長に対する怒りが湧き上がる。 (まったく真澄様は、マヤちゃんに何をしたのかしら) 昨夜何があったのかと聞き出すと、泣きながらポツポツと話し出す。 「昨日・・・マンションで・・・拾って・・・会わないの。」 ?・・・・・。 マヤの話し方には慣れているつもりだ。 だいだいにおいて、すぐには話の内容が理解出来ない。少しずつ話を整理しながら聞かないと、主語と述語がめちゃくちゃで訳がわからなくなってくる。 「マンションに行ったの?社長のね、そこで何を拾ったの?」 「そこで、彼女が・・・。」 「かっ彼女?えっ・・・彼女って、女の人がいたの?」 「・・・綺麗な人・・・。」 水城の中に社長に対する、殺意が芽生えた。 なんて事なの! あんなにマヤちゃん一筋だと思っていたのに、だからあの婚約解消後の地獄だって文句も言わずに乗り越えてきたのに・・・。 「彼女は何か言っていたの?」 「・・・なにも・・・。で、彼女の・・・持ってきちゃったの。」 大泣きになったマヤに、これ以上話を聞くのは困難になった。 持ってきたって何を? まあどんなものだっていいわ、慰謝料とすれば安いもんよ。 それよりマヤちゃん一人こんなに傷ついて、のうのうとしている真澄様なんて許せない。 「マヤちゃん、ちゃんと社長と話をしましょう。」 速水が見ている書類は急ぎの仕事ではあったが、そんなことは今さらどうでもいい。 嫌がるマヤの手を引っ張り、社長室に乗り込む。 ノックもせず、ドアを勢いよく開ける。 「!なんだ、豆台風かと思ったら、・・・水城君か・・・マヤもいるのか?」 「見損ないました!社長には今後一切の協力は致しませんわ!」 いきなり乗り込んできて、そう高々宣言されても速水には何のことかさっぱりわからない。 「?一体何があったというんだ。・・それよりマヤ、今頃撮影中じゃなかったか?」 「撮影?そんなの出来るわけないじゃないですか?昨夜マヤちゃんに何をしたか、胸に手を当ててよく考えてくださいませ。」 「だからさっきから訳がわからないんだが、俺が一体何をしたというんだ。」 白々しい。昨夜マヤちゃんの目の前に彼女を出しておきながら、白を切るおつもり? そんなこと許されない。 「昨夜はマンションで、どなたとご一緒でしたの?」 「はぁ?そんなの決まっているだろう。マヤとだが・・・。」 自分の上司でも殴りたい。 あくまでも彼女の存在を認めないらしい。 「何を勘違いしているかはわからないが、昨夜はマヤと一緒だった。でも、すぐにマヤは帰っていったが・・・。」 「そりゃそうでしょう。違う女の人がいたら、マヤちゃんだってその場にいられず帰りますわ。」 「違う女?何のことだ?昨日はマヤと二人っきりだったが・・・。」 へっ?・・・・。どういうこと? さっきまであまりにも怒り狂っていたので、話を聞き違えていたの? マヤちゃんとの話の違い差に、いつもの冷静な水城が戻ってくる。 マヤちゃんと二人っきり?じゃ、彼女は?まさかマヤちゃんにだけ見えた? 「知っているのよ。・・・私、知っているの。速水さんにちゃんと彼女がいるの・・・。」 ずっと黙っていたマヤが、泣きながら、でもまっすぐ速水を見つめて言う。 「どういう意味だ、マヤ。俺に彼女がいるのか?確かにいるが・・・、それは目の前にいるマヤだけだ。」 「嘘!・・・ごまかされない。証拠だってあるのよ。」 「証拠?だから一体何からそんな馬鹿げた話になるんだ。」 速水もさすがに身に覚えのない言いがかりをつけられ、少しいらだってきた。 マヤはまだ認めない速水にカバンから例のイヤリングを取り出し、投げつける。 「このイヤリングを、・・・プレゼントしたんでしょう?」 とっさのことだったが、速水はマヤが投げつけたイヤリングをキャッチする。 「ちょっと待ってくれ。マヤ、こんなイヤリングを俺は知らない。」 確かに速水には見た事もない、黒真珠のイヤリングだった。でも、マヤが速水の部屋で拾ったと言う。一体誰が落としていったのか、さっぱりわからなかった。手の中のイヤリングをよくみると、とても綺麗で高価な品だとわかった。 「マヤ、聞いてくれ。このイヤリングは」 「あ―――。」 速水の手のひらに乗っているイヤリングを見て、水城が大声をあげる。 あわてて速水の手の中からイヤリングを取り出すと、つまんでよく見てみる。 「真澄様の部屋に落としたのね。よかった・・・。」 「はあ?」 「これ、私のです。以前聖さんに貰ったもので・・・。なくしたと思ってずっと探していたんです。」 イヤリングの持ち主はわかった。きっと聖のことなら、安物など水城には贈らないだろう。しかし、なぜ水城のイヤリングが速水の部屋に?それはまだ解決しなかった。 「きっと一昨日の夜ですわ。」 一昨日の夜とあるパーティーに出席した速水が、ベロベロに酔っ払ってしまった。いつもそんなに飲まないのに明日のマヤとのデートに、気持ちが浮かれていたのだろう。聖とともにマンションまで送ってきた。水城は車で待っていると言ったが、深夜にいくらロックしても水城一人残すのは心配と、聖と共に速水の部屋までやってきた。その時に落としたらしい。 「勘弁してくれよ。これのせいで・・。」 「確かに落としたのは悪かったと思います。謝罪いたしますが、元はと言えば真澄様が飲み過ぎたからでして、私一人が全面的に悪いとは・・・。」 「俺も悪かったが、そのイヤリングのせいで俺は疑われ、身に覚えのない罪を着せられるところだったんだぞ。」 「しかし、送るという事態にならなければ、私のイヤリングは落ちる事もなく」 いつまでも続きそうな二人のやり取りを、マヤは信じられない思いでみている。 あのイヤリングは水城さんの?速水さんを聖さんと送った時に落としたの?じゃ、彼女は、大人で、綺麗な人は? 「マヤ。どうしたんだ?大丈夫か?」 「マヤちゃん?」 ふと気が付くとマヤが泣きながらブツブツと、何かを言っている。 「・・・彼女は?・・・いないの?」 まだ速水に彼女がいなかったことに、信じていない様子だった。 速水が傍に行って、マヤを優しく抱きしめる。 「マヤ、彼女は君だけだよ。今までもこれからも一緒にいたいのは、マヤだけだ。」 「いいの?大人じゃないよ、綺麗じゃないよ。・・・私で・・・いいの?」 「ああ、ただのマヤがいいんだ。他の誰でもない、ただの北島マヤがいいんだ。」 速水の腕の中で泣きじゃくるマヤ。 このままここにいるのは野暮だと、そっと水城は社長室を出て行った。 「仲直りしたんですね。」 社長室の外でマネージャーが笑顔で立っていた。 「ええ、どうにか。」 二人してホッとするのもつかの間、あの急ぎの書類はいつ出来るのかと、今日のマヤの撮影分をいつにするかに頭を悩ませる。 「絶対、来週に入れちゃ駄目よ。真澄様が不機嫌モードに入ったら、最高の被害者はこの私なんだからね。」 「わかっています。私だって社長ににらまれるのは、避けたいです。」 「まったく、マヤちゃんが絡むと仕事にやる気が出過ぎるほど出るのか、まったくと言ってもいいほど出なくなってしまうのか両極端だから困るのよ。コンスタントに出来ないものかしら?子供以上にたちが悪いわ」 「その点マヤちゃんはちゃんと仕事はこなしていきますから、大人といえば大人ですね。」 しかし結局来週のオフの日に今日の分を撮る事になり、不機嫌モード全開の社長になすすべがなかった。 04.11.2006 ![]() □ミリさんより□ 速水さんに大人の女がいると、マヤちゃんに勘違いさせるに は真珠!しかも色は「黒」と思って、書き出した話です。速水 の部屋にいくら秘書とはいえ、水城さん一人が入るのはまずい と思い、聖さんを登場させました。(これにはとあるサイトさまの 話から、思い立ったものです)最後がうまくまとめられてない んですが、許してください。 このような駄作にも暖かいお気持ちで、日の目を見させてく れた杏子様に感謝しております。これからも杏子様の作品を楽 しみにしております。 ![]() □杏子より□ 大人の女=黒真珠!!う〜〜ん、唸らされました!確かに……。白でもダメだし、石みたいにキラキラしてちゃーアカンな、と。 シリアスな展開になりつつも、マヤちゃんの要読解力な言動が笑いを誘い、 そしてラストのマスVS水城女史のバトルで大爆笑! 台詞の一つ一つが、本当に彼ららしくて、引き込まれてしまいました。 ミリさん、バレンタインに引き続き、今回もまたまた発想の面白いお話、ありがとうございます!! |
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