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written by 遥













会えなくて寂しいときにお互いの声を聞けて、ホッとする。
電話は恋する二人にはひとつの清涼剤のようなものだから…。


本当は電話ではなくて会いたい。
ようやく婚約破棄を経て、マヤと付き合えるようになった。
だが俺にとっては、大都グループが負った損失をカバーするために、今が正念場だった。
マヤも舞台の稽古が始まりお互い忙しい現状では、どちらかが会いたいなどと言うと、互いの負担になるような気がして、躊躇ってしまう。


なかなか会えなくて寂しい想いをしていたある日。
マヤは俺と付き合うまで携帯を持っていかなかったことを訊き、自分と同じ機種の携帯を彼女に買い与えた。


いつでも、どんなときでも、互いの声が気軽に聞くことが出来る。
そしていまでは、この携帯電話はふたりの距離を縮める大切なものとして、なくてはならないものになった。
だが、もともと機械音痴のマヤは電話を受ける事にも失敗し、俺の失笑をかっていた。
はじめて俺が電話かけた日のことを、思い出すだけでも可笑しくて仕方がない。

「トュルルルル………(ブチッ)…ツーツーツーツー……」

(おいおい、あんまりじゃないか、なんで切るのか?)と思いその後すぐかけ直すと、
「もしもし…ごめんなさい、速水さん。」とマヤが謝りながら出た。
「クックッ・・・チビちゃん、電話を受けることくらいはできるだろう?」
「もう、何でそんなに意地悪いうんですか?ひどいっ・・・」
「ああ、俺の言い方が悪かったようだな」
「だから私は持ちたくなかったのに」
「マヤ、ごめん。許してくれ、お願いだ」
「グスッ…っ…」
こんな風にマヤに泣かれてしまうと、いつも降参してしまうのだった。


マヤは携帯の操作をなかなか習得できなかった。だが通話の仕方をようやくマスターすると、次第にメールにも興味がでできた。
“速水さんとメル友になりたい…”と言われ、俺は嬉しさのあまり、マヤが理解できるまで何度も繰り返し操作の仕方を伝えた。

「速水さん、私バカだから、使い方なかなか分からないですよ」
「何を言っているんだ、俺とのやり取りをするために重要なんだから、頼むから覚えて欲しい。マヤ、お願いだ」
「…うん、頑張ります。使えるようになったら楽しいのかな」
「当たり前じゃないか。すぐにとは言わないけれど返事だって必ず送るから」

マヤは苦しみながらもメールを送ってきてくれた。
それは日記の様でもあり、今日あった出来事や、食べたもの、面白かった出来事などマメに届いた。
実際のところマヤのメールを受け取っては目じりを下げて喜んで読んでいた。


しかし俺には返信をする時間などなかった。
たまに移動の最中に返信を送ることはあったが、内容は素っ気無くて、
『ちゃんと食べて体を大切にしているか?』や
『次の舞台の成功を祈っている』などというものが多かった。
何でもいいから、彼との連絡がやり取りをしたくてマヤはメールを送っていたがメールも電話も来ない携帯電話を持つことがさびしくて、
次第に共演者とメルアドの交換等を始めて使うようになっていった。


真澄に自分以外にはメールを教えるな、やり取りをするな言われていたが、携帯を持った事を知った共演者や友達に徐々に教えていった。


二人が久しぶりに会っているときにマヤの携帯が鳴った。

「ん?どうしてとらないんだ、電話だろう?」
「ううん、メールです。後でみるからいいです。」
すましてマヤが言うと
「誰からのメールだ、俺以外にメールアドレスを教えているのか?麗君か?」
「ううん・・・」
「じゃあ、誰なんだ。俺に知られるとまずい相手なのか」
「そんな事はないです。でも・・・速水さん怒っているみたいだし・・・」
「怒ってなんかいない。ただ、俺以外にメールをやり取りするとは思っていなかっただけだ」

と言いながらも、心の中でめちゃくちゃに腹が立っている真澄だった。

「だって寂しかったんだもの。
速水さん、いつも連絡くれるって言いながら返信くれないし、
電話もくれないんだもの。私どうしたらいいのか分からない」

マヤの言葉に何も言えなくなってしまった。
先ほどまでの怒りが自分に向き、手のひらをぎゅっと握り締めた。
どうしたらマヤに俺の気持ちを分かってもらえるだろうかと考えたが、きっと理解してもらえる、と思い込んでいた。


その後、マヤがほかの話題を話し始めたので、彼女の中でこの件は解決したと思っていた。
しかし、マヤはその日の夜から姿を消した。











翌日、真澄はロケにマヤが来ないという連絡を受けてマヤの携帯に連絡をした。
しかし…何度かけても出ない。メールを送っても返事が来ない。
あせった俺は留守番電話にメッセージを入れた。

「マヤ、どうしたんだ、どこにいる?これを聞いたら電話をくれ」

心が切り裂かれるほど痛い。なぜ、マヤが姿を消したのか、そこまで彼女を追い込んでしまった自分の考えの甘さを感じていた。
俺はマヤに甘えていたのか。


そんな事を考えている俺の元にマヤからメールが届いた。
『速水さん、私から連絡するまで少し時間をください。マヤ』

『分かった、待っているから必ず連絡してくれ』

返事を打ち終わってマヤからの連絡を待つことで初めて事の大きさに気がついた。
たった一行の中にいろんな感情が書かれていた。彼女の寂しさの原因が自分にあるとは全く思っていなかった。



マヤはその翌日からは仕事にも現れていたが、俺には連絡が来ない。
毎日携帯電話を眺めていても着信はない。

待つとマヤに言ったからには途中で自分から連絡を入れることは出来ない。
俺は約束を守る男だからだ。
どこで稽古をしているかも知っている。会いに行きたい気持ちで一杯だったがぐっとこらえて耐えた。


そして一週間マヤから着信がなかった。
彼女に連絡がとれなくなって、自分の心に寂しさの限界がきた俺は、一大決心をしてマヤにメールを送る事にした。


『マヤが連絡をもらえなくて寂しかったという気持ち、
 その辛さも十分に味わった。
 俺がマヤに甘えてしまい、忙しさを理由に連絡を怠っていた事を反省している。
 今後このような事はしない。
 マヤからの着信が無い電話を持つだけなのは虚しい。
 俺が悪かった、許して欲しい。』











次の日、携帯電話が鳴った。
発信者を見ると心待ちにしていたマヤからだった。

「今から会社に伺ってもいいですか?」
「あぁ、よく電話をくれた。今は大丈夫だから待っている」

次の会議の時間が迫っていたが、水城君に頼んで時間を作ってもらった。
彼女にはすっかりマヤの事で世話になっている。
いつもの様に特別支給を出さないとだな…。


「こんにちは、今大丈夫ですか?」と
マヤが部屋に顔を出した。

「マヤ、俺が悪かった。許して欲しい」と彼女を抱きしめた。
「どれだけ寂しい思いをしていたか分かりますか?
 私が速水さんに抱いていた気持ちを分かってくれますか」
「ああ、辛かったよ、寂しい思いをさせてごめん
 もう二度とこんなことにならないようにするから」
 
俺はマヤを抱きしめて心からほっとした。
マヤなしでは生きていけないと改めて感じた。


携帯電話を持つ事は簡単だがお互いの心を通わせて使わないといけない、
そうでないと持っていても全く意味がないものだ。
今回の事で考えさせられた。


「速水さん、毎日ちゃんと連絡くださいね。約束です。」
「ああ、分かった」
「次またやったら許しませんからね。」
「・・・ ・・・」


ふっとため息が出てしまった。
だがお互いのためだしな。とても心配だが出来るだけの努力をしようと思う・・・








04.09.2006


<FIN>






□遥さんより□

杏子さん、ESCAPEの三周年おめでとうございます。 そして、すばらしい作品が一杯な中、拙作を置いていただく事がとても恥ずかしいです。
ガラかめにハマって3年、ESCAPEには、自分が辛いときやしんどい時、こちらの作品を読んでどれだけ幸せにさせてもらった か分かりません。
みなさんの投稿作品を拝見して、皆さんこれだけよく書かれるなぁと思っていたのに、まさか自分からお題を投稿するなんて事を考 えるなんて思ってもみませんでした。
書き終えた今は、HAPPY ESCAPEに参加することが出来て本当によかったです。
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□杏子より□

大変なご苦労の末の、脱稿、本当にお疲れ様でした。
”まだ書けません”
”今日も書けませんでした”
と実況中継拍手を頂くたびに、私もドキドキ、キリキリしておりました。

”メールの回数で、着信の回数で愛の重さを計らない” そう言い聞かせながら、それでもいつもいつも、振り回されるこの携帯という恐ろしい現代の魔物。 自分からかけてしまってはその後の ”着信ナシ” 期間の地獄を味わう羽目になる私としては、 ひたすら、ウンウン、わかるよマヤちゃん、 と頷いてしまうお話でした。
”携帯電話を持つ事は簡単だがお互いの心を通わせて使わないといけない、 そうでないと持っていても全く意味がないものだ。” この最後の一文がとても心に残ります。 現代の文明がもたらした、二面性だと。
遥さん、無事にお祭終了までに脱稿できて、本当によかったですね! あとは楽しむだけです!!
このたびは、本当にありがとうございました!!

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